EDIUS開発者ブログ Vol.1
EDIUSの長所を再考したささいな出来事(EDIUS Pro 6.5の開発を終えて)
EDIUS Pro 6.5の開発を終えた頃、弊社企画部の人間に、開発者の考えるEDIUSの長所を聞かれた。宣伝のためのアンケートらしい。
EDIUSの長所というとその軽快性やマルチフォーマット対応など多々あるが、6.5で実装された大きめの機能で他社製ソフトと比べて秀でた機能と言えば、三次元立体視映像の編集機能である。日本の開発部のエライ人が前任者の前任者であった頃から、この立体視映像の編集機能はトッププライオリティーであり、かなりの時間と労力を費やして実装した機能である。そのおかけで、EDIUSの立体視映像のサポートは、他社ソフトと比べても大変使いやすい出来であると自負している。立体視調整ビデオフィルターしかり、編集中の立体視プレビュー機能しかり、である。しかしながら、私たち(開発者)はわかっている。立体視映像のサポートは私たち(グラスバレー)に多くの利益をもたらさない。投入した分のコストを回収できないのである。あわよくばジェームスキャメロンあたりがEDIUSを採用してくれて、ポンと売り上げが立たないか~などと夢想してはいるが、現実はそう甘くはないだろう。思えば、この機能によって売り上げが上がるのか、実装開始前から私たち(開発者)は懐疑的であった。一部に需要があるのは認めていたが。案の定、2013年現在、かなり(日本では特に)下火になっている感がある。
そのようなわけで苦労した割にはイマイチ評価されていない立体視映像編集機能に同情の念もあり、最初、企画部の人には立体視編集機能を言ったのだが、すでに他の人によって挙げられたとの返答。それではと、ユーザーにとってわかりやすい機能で、宣伝に使いやすい機能は何かと考えたところ、答えはすぐに出た。それはマルチカム編集機能(=マルチカメラ編集機能)である。
EDIUSのマルチカム編集機能は、他社ソフトと比べて非常に使いやすい。どのカメラの映像をどこからどこまで採用したのかが、タイムライン上のクリップの有効無効状態として反映されるため、見た目にわかりやすい。この見た目にわかりやすいということは非常に重要で、映像の構成を把握して推敲できるかどうか、ということに影響する。また、マルチカム編集の結果がタイムライン上の普通のクリップの状態として反映されるため、採用するカメラの変更や、スイッチするタイミングの微調整が簡単にできる。このことは、マルチカム編集モードをマルチカム編集として使用しない場合においても、通常編集モードでクリップを配置してからマルチカム編集モードに切り替えることにより、タイミングを調整する(=クリップのトリミング)ことに利用できる、ということでもある。さらに言えば、マルチカム編集機能はEDIUSのタイムライン再生の軽快さに裏打ちされている。最適化された再生処理が、マルチカム編集を行う際に同時再生できるカメラ数を押し上げているのである。
(しかし、マルチカム編集機能に限った話ではないが、私が実装に深く関わっているのだから自画自賛もいいところだ。スミマセン。一応EDIUSのマルチカム編集機能の欠点も言っておくと、ビデオトランジションの扱いに改善の余地がある。実際に改善案もあるのだが手が回っていない。)
企画部の人にマルチカム編集機能だと告げたところ、賛同してもらえたご様子。よかった。
ところで、「EDIUS.jp」(EDIUSWORLD.COMの前身サイト)の管理人(弊社社員である)と飲み会をした(2年前、神戸のオフィスが山中から街中に引っ越してからちょっとした飲み会が増えた)、そのときにはこう言われた。EDIUS Pro 6.5での最も良い新機能はクイックスタートであると。クイックスタート。正確には新機能ではなく改善点だ。何のことかわからない方もいらっしゃるだろうが、単純に、EDIUSのプロジェクトファイルを開くのにかかる時間が短くなったのだ。内容の複雑なプロジェクトであっても大抵は数秒程度で開くことができる。たしかに前バージョンまでは大きなプロジェクトファイルを開くのに数分間も待たされることがあったことを考えると、大幅な改善だろう。クイックスタートについてはQAチームのリーダーにもお褒めの言葉を頂いているし、実際のユーザーにも好評のようなので、心境としては「ざまあみろ!」である。言葉が悪い。訂正してお詫び申し上げます。とにかく、これはEDIUSについての私の昔からの信条であるが、誰が使うかわからない機能を実装するよりも、私たちの本当のユーザーのために使い勝手を良くし、手になじむツールにしたい。6.5ではそのための改善を少なくとも一つ行うことができたのではないかと思う。
クイックスタートについて少し技術的な説明を加えておく。クイックスタートのための変更内容は、プロジェクトファイルのデータ構造を最適化した、というようなことではなく、最も時間のかかる処理である素材ファイルの処理(読み込み、解析、保存したデータとの整合性検査)を完全にバックグラウンドスレッドで行うようにした、ということだ。プロジェクトファイルを解析して開く処理自体はメインスレッドで行われ、それは数秒程度で終了する。その一方で素材の処理はプロジェクトが開かれた後もバックグラウンドで継続して行われる。そのため、私はこれをクイックスタートと呼んだことはなく、素材のディレイロード(=遅延読み込み)と呼び、仕様書もこの名前で作成していた。機能が増えるわけではないので、新機能一覧には載らないと思っていたのだが、「クイックスタート」と命名されて新機能一覧に加えられたことは、私にとっては嬉しい誤算であった。
グラスバレー株式会社 ソフトウェア開発者 M,T
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